荘子【大宗師 三 理想的人格】

大宗師  三  理想的人格

この理想的な人格に照らしてみると、かりに武力を用いて他国を滅ぼしたとしても、その国の人民は国を滅ばされたとは思わず、人民に恩恵を施しながらも、人民は恩恵を施されたとは思わぬ者こそ、聖人の名に値するといえよう。作為的に秩序を形成しようとする者は聖人ではなく、意識的に愛を実践しようとする者は仁者ではなく、ことさらに自然に順応しようとする者は賢者ではない。利害にとらわれて利と害とが結局は同一であると気づかぬ者は君子ではなく、名誉にとらわれて自己を見失う者は士ではない。わが身を滅ばし、本性を喪失した人間は、いわば奴隷に等しいのである。