安倍晴明物語

仮名草子「安倍晴明物語」⑨伝浅井了意作

花山院の出家を知る 花山院は、冷泉院第一の皇子として、御位にお就きになり、小野の宮殿の娘を、女御(にょご)になさった。弘徽殿(こきでん)にいらっしゃったので、弘徽殿の女御と申し上げた。ほどなく、お亡くなりになったので、帝の嘆かれようは、限り…

仮名草子「安倍晴明物語」⑧伝浅井了意作

庚申の夜、殿上人を笑わせる九月庚申の夜、殿上人が宮中に伺候し申し上げたが、夜が長いので、明かすことに耐えかねられて、天皇をはじめ若い殿上人の多くが眠たくなられた。何か眠気覚ましにすることがないかと言って、晴明をお召しになり「何とかして眠気…

仮名草子「安倍晴明物語」⑦伝浅井了意作

人形を祈って、命を移し替える さて、五条の辺りに住んでいたある人が、若い女と夫婦の契りを結び、元の妻を捨てようとした。元の妻は、果てしなくねたみ、腹を立て、「私はどうにかして生きながら鬼になり、憎い男と今の妻を、思い通りにとりついて殺そう」…

仮名草子「安倍晴明物語」⑥ 伝浅井了意作

太唐の城荊山文殊堂が炎上、伯道上人が来朝し、道満が殺される 唐土(もろこし)では、宋の太宗皇帝の時代に、太平興国元年十一月に、荊山の文殊堂が、理由もなく火が燃えて、一瞬の間に焼け落ちてしまった。伯道は、大いに驚いて「これはただ事ではない、き…

仮名草子「安倍晴明物語」⑤ 伝浅井了意作

晴明 殺される さて、晴明が唐に渡って三年の間に、留守を預かった弟子の道満法師は、晴明の妻である梨花と、あろうことか男女の契りを結び、深い仲となった。 道満はある時、梨花に語って「晴明は唐に渡って、また、どんな貴重な書物を伝えてきたのか」と言…

仮名草子「安倍晴明物語」②伝浅井了意作

安倍童子 鳥の話を聞き、晴明という名を賜る 村上天皇の時代、天徳四年庚申九月二十四日、後涼殿より火が出て、内裏が残りなく焼けてしまった。その次の年、見事に建て替えられて、なお、その昔を越える出来栄えとなった。 このような時に、安倍童子が天王寺…

仮名草子「安倍晴明物語」①伝浅井了意作

安倍晴明 誕生 第六十二代天皇の村上天皇の時代、その家で(その家とは和泉国の篠田の里に近い安倍野という安倍仲麿のゆかりの家)安倍安名(やすな)という人が耕作を生業としていた。どこからともなく美しくて若い女性が一人来て、「私がこの家に来たのは…